Google I/O 2026(2026年5月19〜20日)で発表された動画生成 AI「Gemini Omni」は、テキスト・画像・音声・動画の全入力を受け付け、会話形式で動画を生成・編集する「any-to-any」モデルです。BtoB 企業の動画制作コストと制作スピードの常識を変える可能性を持つこのモデルについて、今すぐ知るべきポイントを整理します。
Gemini Omni とは何か — any-to-any モデルの本質
Gemini Omni は、Google が Google I/O 2026 で発表したマルチモーダルな動画生成・編集 AI モデルです。Google DeepMind の公式発表によれば「Gemini のコアインテリジェンスと、高度な生成メディア機能(image-to-video・video-to-video AI 編集を含む)を統合した、Omni ファミリーの最初のモデル」と定義されています(出典: Google 公式ブログ Gemini Omni 発表)。
Google は Gemini アプリ内の動画生成機能として、従来の Veo 3.1 を Gemini Omni Flash に置き換えると明記しています。「Google Omni」という呼称が業界関係者の間で流通していますが、正式製品名は「Gemini Omni」です。
Gemini Omni Flash の仕様
現在展開中の最初のリリース製品が「Gemini Omni Flash」です。主な仕様は以下のとおりです。
- 動画生成クリップの最大長: 10秒(2026年5月時点のデプロイ制限。モデル自体の上限ではなく展開側の制限とされ、延長見込み)
- 参考画像入力: 最大5枚を組み合わせての動画生成が可能
- 編集方式: 会話(チャット)形式でのマルチターン編集に対応
- デジタルアバター機能: 対応
- コンテンツ証跡: SynthID デジタル透かし + C2PA Content Credentials を全出力に自動付与
Veo 3.1 との住み分け
Gemini Omni と Veo 3.1 は「競合」ではなく「レイヤー分け」された関係です。Gemini Omni Flash は Gemini アプリ(コンシューマー・プロユーザー向け)の動画生成エンジンとして展開されています。一方、Veo 3.1 は Vertex AI 経由でエンタープライズ向けに 720p・1080p・4K の3解像度、4秒・6秒・8秒 のクリップ長に対応した API として提供されています(出典: Google Cloud Documentation)。
企業が自社システムに組み込む「API 統合」は現時点では Veo 3.1 が主軸です。Gemini Omni Flash のエンタープライズ向け API は2026年5月時点で「数週間以内に提供予定」とアナウンスされており、本記事執筆時点(2026年6月)では正式公開日が未確定の状態です。
競合モデルとの仕様比較
Gemini Omni Flash、Veo 3.1、Sora 2(OpenAI)の主要仕様を比較します。
Gemini Omni Flash
- 入力形式: テキスト・画像・音声・動画(any-to-any)
- 動画長: 最大10秒(展開制限)
- マルチターン編集: 対応
- SynthID 透かし: 全出力に自動付与
- C2PA: 全出力に自動付与
- エンタープライズ API: 準備中(2026年5月時点)
Veo 3.1
- 入力形式: テキスト・画像中心
- 動画長: 最大8秒(4/6/8秒の3段階)
- マルチターン編集: 非対応
- SynthID 透かし: Vertex AI 経由で対応
- エンタープライズ API: Vertex AI で安定稼働中(2025年10月〜)
Sora 2(OpenAI)
- 入力形式: テキスト・画像
- 動画長: 最大20秒以上
- マルチターン編集: 限定的
- SynthID 透かし: なし
- C2PA: なし
- エンタープライズ API: 2026年9月24日に終了予定
Sora 2 の API 終了については後の「コンプライアンス・安定性」セクションで詳述します。
BtoB 担当者が押さえるべき数字
AI 動画の市場全体については、以下の定量データが現状を示しています。
AI 動画ジェネレーター世界市場は 2025年 7億1,680万ドル → 2026年 9億4,600万ドル → 2034年 33億5,000万ドル(CAGR 19〜20%)に拡大見込みです(出典: Fortune Business Insights)。
エンタープライズ向け AI 動画プラットフォームへの支出は 2025年に前年比 127% 増。AI 動画ツール全体の市場は 2027年に 128億ドル(2025年 42億ドルの3倍超)に達する予測です(出典: Autofaceless)。
企業導入の現状としては、BtoB マーケター全体の 49% が AI 動画をワークフローに組み込み済み(2026年時点)、Fortune 500 企業の 73% が導入済みという数字が出ています(出典: Autofaceless)。
また従来の動画制作コストは 1分あたり 4,500ドル が標準でしたが、AI 活用後は 400ドル(91%削減)。60秒の動画制作時間は 13日 → 27分 へ短縮された実績があります(出典: Autofaceless)。
本音を言えば、「動画制作の外注って、コストより時間が問題」という感覚は、この数字を見る前から持っていました。初稿が2〜3週間後に届く、その間に伝えたいメッセージが変わる、あるいは担当者が変わる。このタイムラグが意思決定を鈍らせます。
Wild Hare Group(英国食品ブランド)が Veo 3 を活用した事例では、制作コスト 90% 削減よりも「30分で初稿完成」という数字のほうが経営者目線では刺さります。従来なら制作会社を探すところから2〜3週間かかっていた動画を、30分で初稿まで持っていける。Tesco 53店舗展開の2週間デッドラインをクリアできたのは、このスピードが直接効いた結果です(出典: Think with Google UK)。
今すぐ使える3シーン — 研修・営業・マーケ素材
Gemini Omni と Veo 3.1 が BtoB 企業の実務で機能するシーンを、Enterprise DNA のデモ事例をベースに整理します(出典: Enterprise DNA)。
シーン1 研修・オンボーディング動画の量産
L&D(学習・人材開発)領域が最も即効性が高いシーンです。テキストの研修マニュアルをプロンプトとして入力し、手順説明動画に変換する使い方が Enterprise DNA のデモで実証されています。デジタルアバター機能と組み合わせると、ナレーター役のアバターが一貫した口調で複数の研修モジュールを語り続けます。
更新頻度が高いコンプライアンス研修や製品知識の動画を、都度外注するコスト構造から脱却できます。研修動画の AI 活用については以下も参考にしてください。
シーン2 営業資料・提案デモの動画化
スライドデッキを「シーン遷移の動画」として変換するデモが Enterprise DNA で公開されています。製品テキストブリーフ + 静止画のセットから製品紹介動画を生成するフローも実証済みです。SaaS の製品デモ動画を商談前に自動で用意する使い方は、特にインサイドセールスチームの生産性を変えます。
営業動画の具体的な活用手順については以下をご覧ください。
シーン3 マーケティング素材の多言語量産
Gemini Omni のアバター機能 + 音声入力対応を組み合わせると、同じ内容を複数言語・複数フォーマット(縦型/横型)で展開できます。YouTube Shorts は Google I/O 2026 時点で展開開始済みです(出典: Google 公式 I/O 2026 全発表)。
VentureBeat は「Gemini Omni はエンタープライズのコンテンツスタックを再編成する」と評価し、マーケティング・研修・カスタマーサポート動画の大量制作ワークフローを一変させると指摘しています(出典: VentureBeat)。
BtoB 動画制作全般の AI 活用事例については以下もあわせてご覧ください。
企業が見落とせないコンプライアンス視点
SynthID + C2PA による監査証跡
Gemini Omni が生成する動画はすべて SynthID デジタル透かしと C2PA Content Credentials が自動付与されます。SynthID の累積適用件数はすでに画像・動画 1,000億件以上 + 音声 6万年分に達しています(出典: Google 公式 SynthID 発表 / InfoQ)。
EU の AI Act をはじめとする規制環境では、AI 生成コンテンツの識別義務と監査証跡の保持が求められます。「誰が・いつ・何を AI で生成したか」を証明できる仕組みが標準装備されている点は、企業の法務・コンプライアンス部門への説明材料になります。
プラットフォームの安定性リスク — API 終了の現実
OpenAI Sora 2 の API は 2026年9月24日に終了します。Sora 2 の API に基づいてワークフローを構築した企業は、この日までに移行が必要です(出典: Digital Applied)。
これはプラットフォームリスクの典型例です。一方、Google の Veo 3.1 は 2025年10月以降 Vertex AI で安定稼働を続けており、エンタープライズ品質での継続性が確認されています。Gemini Omni Flash のエンタープライズ API も Workspace Enterprise への統合が見込まれており、Google エコシステムとの連携コストが低い企業には採用しやすい選択肢となります。
利用開始・価格の現実
現時点での利用プランを整理します。
Gemini アプリ(コンシューマー・プロ向け)
- AI Plus: 月額 $7.99〜(基本動画生成)
- AI Pro: 月額 $19.99〜(拡張機能含む)
- AI Ultra: 月額 $99.99〜(Gemini Omni Flash フルアクセス)
Vertex AI 経由(エンタープライズ向け API / Veo 3.1)
- Veo 3.1(動画のみ): $0.50/秒(8秒クリップ = $4.00)
- Veo 3.1(音声付き): $0.75/秒(8秒クリップ音声付き = $6.00)
- Veo 3.1 Fast: $0.10/秒
- Veo 3.1 Lite: Veo 3.1 Fast の 50% 未満のコストで同等速度(高ボリューム用途向け)
出典: veo3ai.io 価格まとめ
Gemini Omni Flash のエンタープライズ向け API 価格は2026年6月現在まだ未発表です。Workspace Enterprise への統合が見込まれていますが、正式な料金体系の公開前に社内予算計画に組み込む際は、Google 公式の最新情報を確認してください。
本記事に掲載した仕様・価格情報は 2026年6月時点のものです。Gemini Omni Flash の動画クリップ上限・エンタープライズ API の正式提供開始日・日本での機能制限の有無は変更される可能性があります。公開前に Google 公式 を必ず再確認することをお勧めします。
少し個人的な話を挟むと、「チャットで動画を直す」という説明を最初に読んだとき、どういう操作感なのか、実際にはつかめていませんでした。
従来の動画編集ツールは「タイムライン」「レイヤー」「エクスポート」という空間的な操作モデルです。Gemini Omni の会話型編集は「背景をもっと明るくして」「このシーンに英語ナレーションを追加して」という自然言語の指示が編集コマンドになります。
どちらが「効率的か」は用途次第ですが、この操作モデルの転換が意味するのは、動画編集スキルのない企業担当者が制作ループに入れるようになる、ということです。外注依存からの脱却を検討する価値は、以前より現実的になっています。
まとめ — 今、何をすべきか
Gemini Omni の登場は、BtoB 企業にとって「AI 動画を試す段階」から「どの業務フローに組み込むかを決める段階」への移行を求めています。
整理すると、今の判断軸は次のとおりです。
- 今すぐ試せる用途: Gemini アプリの AI Pro プランで研修動画・プロトタイプ用動画生成を始める。月額 $19.99 で感覚をつかむ
- 3ヶ月以内に判断すべき用途: Veo 3.1(Vertex AI)を使った API 統合が業務効率化に有効か検討する。Sora 2 ベースのワークフローを持つ場合は2026年9月24日の API 終了前に移行計画を立てる
- 中期的に注目すべき点: Gemini Omni Flash のエンタープライズ API 正式公開後、Workspace Enterprise との統合可能性を評価する
AI 動画市場は 2025年から 2034年にかけて年率 19〜20% で成長し続ける見込みです(出典: Fortune Business Insights)。また、エンタープライズ向け支出が前年比127%増加しているという事実は、競合他社もすでに動き始めていることを示しています。
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