新卒3人に1人が、3年以内に辞めます。
そのほとんどが、入社後の最初の90日以内に「この会社にいるべきか」を判断しています。問題は「採用のミスマッチ」だけでなく、入社後に何を・いつ・どう届けるかという設計の話です。
本記事では、Day1から90日間の「オンボーディング動画 設計テンプレ(Phase 0〜4)」と、サイボウズ・manebi・Avettaの定量事例を整理します。
少し個人的な話を挟むと、以前の自分はオンボーディングの初日に2時間話し続けるスタイルで運営していました。毎回同じことを話しながら「この時間、何年続けるんだろう」という感覚はあったのですが、結局、何年も後回しにしました。
数年後にそれまで辞めた社員を振り返ったとき、そこに投資しなかったコストの大きさを実感しました。採用コストは1人あたり平均$4,100(約60万円)かかる研修費用に加え、再採用・関係者の時間損失が重なります。
動画を用意しなかったことへの反省というより、設計という発想がそもそも欠けていたというのが正確な認識です。
結論:90日間の設計テンプレが、早期離職を変える
オンボーディング動画の効果は、「何となく動画を使う」ではなく時系列で体系化して届ける設計で初めて出ます。Day1に安心感を与え、Week1で全体像をつかませ、Month1〜3で実務に定着させる。この3段階を動画コンテンツで担保することが、早期離職を防ぐ最短経路です。
国内外の定量事例が示すとおり、サイボウズは離職率を28%から4%へ▲24ポイント改善しました。manebi 田島 CEO の公開資料による試算では離職率が30%から約3%へ低下しています。Avettaは動画オンボーディング導入で定着率を8%向上させています。
いずれも特殊なツールや大型投資だけで実現したものではありません。「何を・いつ・誰が・どの形式で届けるか」という設計の問題です。
新卒3人に1人が離職する——入社後のリスクが最大化するタイミング
最初の90日が最大の危機
厚生労働省の調査によれば、令和4年3月卒の大卒就職者が3年以内に離職する割合は33.8%です。企業規模が小さいほど深刻で、5人未満の企業では57.5%に達します。
Enboarder の2025年 HR Leader Survey によれば、86%の新入社員が入社後6ヶ月以内に「どれくらい在籍するか」を決定しています。さらに22%は最初の90日以内に実際に退職しています。
エン・ジャパンが451社を対象に実施した2024年調査では、退職に繋がりやすい時期として「3ヶ月未満」が34%と最多でした。大企業に限ると42%が3ヶ月未満で離脱しています。
入社半年後に満足度が下がる
マイナビキャリアリサーチLabの2025年3月調査では、入社半年後に満足度が低下した新入社員は40.1%に上ります。ロールモデルがいる環境とそうでない環境では、3年以内転職検討率に48.5ポイントの差がつくというデータもあります。
オンボーディングは入社直後の数日で終わらせるものではありません。半年間を見据えた設計が必要です。
新入社員が抱える不安の正体
リクルートマネジメントソリューションズの「新入社員意識調査2024」では、「仕事についていけるか」という不安を持つ新入社員が65.0%で最多でした。2位は「上司とうまくやっていけるか」で45.9%です。
この2つの不安を、入社初日のオンボーディング動画でどう緩和するかが設計の出発点になります。
オンボーディング動画の効果:複数の研究が示す定着率改善
構造化オンボーディングの定量的優位性
HiBob の「State of Employee Onboarding」レポートによれば、構造化されたオンボーディングを実施した企業では、従業員が3年間留まる可能性が69%高まるとされています。
リクルートワークス研究所の報告(Harvard Business Review / Wynhurst Group 参照)では、オンボーディングプログラム導入企業の新入社員定着率が最大50%向上するとされています。
Brandon Hall Group の調査によれば最大82%まで上振れする例があるとされていますが、この数字は解釈に留保が必要な状態です。複数の独立した研究が「構造化オンボーディング = 定着率の有意な改善」という方向性では一致しています。
なぜ「動画」が有効なのか
HR総研が2024年10月〜11月に201社を対象に実施した調査では、「入社後ミスマッチ防止」施策が離職率差1.57ポイントと6施策中最大効果を示しています。
ミスマッチを防ぐ最短の手段が、期待と現実のギャップを入社前に縮めることです。採用担当者が個別に話す時間的制約の中で、動画は「いつでも・何度でも・自分のペースで」同じ品質の情報を届けられる唯一の媒体です。
Panopto の調査では、動画オンボーディング活動を入社後1〜2ヶ月に分散させることで定着率が大幅向上するという実務知見が報告されています。
設計テンプレ:Phase 0〜4 の動画コンテンツ一覧
Phase 0: プリボーディング(入社2週間前〜入社前日)
目的: リアリティショック(期待と現実のギャップ)の事前軽減
入社初日に全力を出させるためには、その前に「何が待っているか」を安心して確認できる環境が必要です。この時期に届けるべき動画は以下の3種類です。
- CEO・創業者ウェルカムメッセージ動画(2〜3分)
- 「入社初日の流れ」案内動画(持ち物・場所・スケジュール詳細)
- 会社のミッション・ビジョン・カルチャー紹介動画(5〜7分)
受け取る側は内定承諾後から入社日まで、他の選択肢との比較が頭の片隅に残っている時期でもあります。この段階での動画は「内定辞退防止」としても機能します。
Phase 1: Day1(入社初日)
目的: 「仕事についていけるか(65%が抱える最多不安)」への初期安心感の付与
入社初日は情報過多になりがちです。詰め込みではなく「安心して次の日も来られる」感覚を最優先に設計します。
- 全社員向けウェルカム動画(チームメンバー紹介・雰囲気の可視化)
- オフィスツアー動画(リモートならシステム・ツール解説動画)
- 「この会社に入社した理由」先輩社員インタビュー動画
- コンプライアンス・情報セキュリティ基本研修動画
先輩社員のインタビュー動画は、リクルートMSが指摘する「ロールモデルの有無が定着率に与える影響(48.5ポイント差)」を早期から補完する仕掛けです。
Phase 2: Week1(入社1週目)
目的: 会社・業務の全体像把握、日常業務のオリエンテーション
1週目は「理解と実践」を急がせない設計が鉄則です。Panopto は動画を「週次目標として設定し、日次スケジュールに縛られない柔軟設計」で届けることを推奨しています。
- 部門・チーム別ミッション解説動画(各部署3〜5分)
- 基本業務フロー・社内システム操作動画(画面録画形式が有効)
- 役職別の期待値・評価基準説明動画
- ロールモデル先輩社員の「最初の1ヶ月」体験談動画
Phase 3: Month1(入社1ヶ月目)
目的: 「理解」から「実践」への移行支援
コアワークフローを実際の業務に接続させる段階です。マイクロラーニング(5〜10分/本)形式で分散配信するのが有効で、一度に詰め込む設計は避けます。
- コアワークフロー詳細解説動画(業務手順書の動画版)
- 業界知識・製品知識の体系的研修動画(マイクロラーニング形式)
- 「よくある失敗と対処法」動画(OJT補完型)
LayerX の事例では、仕様解説・商談段階別動画を整備した環境で入社した営業担当者が、入社3ヶ月で営業目標達成率278%・4プロダクト全契約獲得を実現しています。
実務直結の動画ナレッジがある環境と、口頭で覚えてもらうしかない環境では、新人の立ち上がり速度がそもそも異なります。
Phase 4: Month2〜3(60日〜90日)
目的: 組織への帰属感醸成、評価軸の透明化、最大離職リスク期間の乗り越え
エン・ジャパン調査が示した通り、退職に繋がりやすい時期は「3ヶ月未満」が34%と最多です。この時期を乗り越えるには「情報の提供」だけでなく「この組織にいる意味の再確認」が必要です。
- 部門横断プロジェクト解説動画(組織構造の立体的理解)
- マネージャーからの期待値・30-60-90日の評価軸説明動画
- 成長フィードバック動画(上司からのメッセージ)
動画によって「上司が自分のことを考えている」という事実を可視化することが、安心感の根拠になります。
Day1に入れるべき動画5種(FOCA フレームワーク)
Synthesia が体系化した FOCA(Five Core Areas)フレームワークをもとに、VideoNext の実務知見を加えて再構成した5分類です。Phase 0〜4 を通じて、この5種類がすべて揃っているかを確認する基準として使えます。
1. ウェルカム動画(Phase 0〜Day1): CEO・チームメンバーによる歓迎・会社紹介。「どんな人たちと働くのか」という最初の安心感を作る
2. 文化浸透動画(Phase 0〜Month1): MVV・価値観・働き方の共有。経営者が語る動画は、口頭より何度でも見返せる点で定着効果が高い
3. キャリア設計動画(Week1〜Month3): 内部モビリティ・成長機会の提示。マイナビ調査が示す「ロールモデルの有無による転職検討率48.5ポイント差」への直接の対策
4. ロール特化動画(Week1〜Month1): チーム・ツール・役割別の期待値説明。評価基準の透明化は「仕事についていけるか」という不安の緩和に直結する
5. コンプライアンス研修動画(Day1〜Month1): 法令・セキュリティ・ポリシーの統一教育。全員に同じ品質で届けられることが動画化の最大の利点
この5種類のうち、どれが抜けているかを棚卸しするだけで、現状のオンボーディング設計の穴が見えます。
本音を言えば、「Day1動画を初めて作ったとき」に手応えを感じたのは制作が終わった瞬間ではありませんでした。
新入社員の一人が「社長の話、動画で初めてちゃんと聞けた気がする」と言ったときです。毎回2時間話し続けていたのに、動画で10分届けた方が伝わったわけです。「伝えた」と「伝わった」は全然別のことだと、そのとき実感しました。
manebi 田島 CEO の公開資料による試算では、CEO・創業者からのメッセージを動画で届けるオンボーディング設計の導入で離職率が30%から約3%へ低下したとされています。
MVVを「言葉」として伝えるか、「動画」として繰り返し確認できる状態にするか。その差が、数年後の定着率に出ます。
90日設計で変わった実例——国内外3社の定量データ
サイボウズ:離職率 28% → 4%(▲24ポイント)
サイボウズは2005年頃に離職率28%という水準を経験し、2012年頃には約4%まで改善しました。
単一の施策ではなく、副業解禁・育自分休暇(退職後再入社可)に加えて、オンボーディング設計の整備が組み合わさった結果です。具体的には、入社3週間は毎日30分で先輩社員2名ずつとのZoom紹介を実施。さらに入社1ヶ月・3ヶ月・6ヶ月のサーベイを継続して実施しています。
重要なのは「3週間で終わり」ではなく、半年間にわたって継続的に状態を確認する設計になっている点です。
manebi:離職率 30% → 約3%(▲27ポイント)
manebi 田島 CEO の公開資料による試算では、オンボーディング設計導入前の離職率30%が約3%へと低下しています。
主要施策は交流会・1on1・メンター制度に加え、「経営者からの動画による理念・ビジョン共有」です。「社長や会長クラスから、新入社員に直接訴えかけるような動画を作ること」というアプローチが、MVV浸透の実効性を高めました。
この事例が示すのは、CEOメッセージの動画化が「コンテンツの効率化」ではなく「組織への帰属感醸成」に直結しているという点です。
Avetta:定着率 +8%・習熟速度 +20%
Avettaは Synthesia の AI動画ツールを導入したオンボーディング設計で、エージェント定着率を8%向上・新入社員の習熟速度を20%向上させています。
保険研修モジュールは60分から20分へ67%短縮、オンボーディング後研修時間は60%削減、平均コール処理時間は16秒短縮を実現しています。2年間の節約時間は1,300時間です。
「習熟を速める」と「定着率を上げる」が同時に達成されているのは、「知識の習得が早い = 自信がつく = 辞めにくくなる」というサイクルが機能しているためです。
Antisel:新入社員 NPS 100 達成
Antisel は同じく Synthesia を活用したオンボーディングで、新入社員 NPS 100(18名から)・オンボーディングプロセス時間50%削減を達成し、HR関連賞を4件受賞しています。
ミッション・ビジョン・コアバリュー紹介動画と初週ガイドシリーズ・マイクロラーニングの組み合わせで、NPS 100という水準を実現しています。「効率化だけ」が目的ではなく、「体験の質を上げる」設計であったことが結果に表れています。
動画だけでは完結しない——設計テンプレの「使い方の注意」
これは完全に自分の感覚ですが、オンボーディング動画を整備した直後に「これで全部解決した」と思った時期がありました。
でも実際には、動画は「情報」を効率的に届けることはできても、「この会社にいていい」という安心感は動画だけでは作れませんでした。
3ヶ月後に退職の意思を伝えてきた社員に「動画は見てましたよ、でも相談できる人がいなかった」と言われたとき、設計の穴がどこにあったかを思い知りました。動画は情報伝達の手段であって、関係構築の代替にはなりません。
動画でカバーできること・できないこと
HR総研の調査で「入社後ミスマッチ防止施策が最大効果(離職率差1.57ポイント)」を示したのは事実ですが、同調査では中堅企業(301〜1,000名)の10%以上離職率が44%に達しているという現実もあります。
動画でカバーできること:
- 情報の均質化(全員に同じ品質で届ける)
- 非同期・自分のペースでの視聴と繰り返し確認
- CEOや上司のメッセージをスケールさせる
- コンプライアンス・製品知識の標準化
動画単体では難しいこと:
- 「この人に相談していい」という心理的安全の構築
- 個人のキャリア不安への1対1の対話
- 予期しない人間関係のトラブルへの初期対応
Phase 0〜4 の設計テンプレートは、動画が担う「情報設計」のフレームです。1on1・メンター制度・定期サーベイなど「対話設計」と組み合わせて初めて機能します。サイボウズの事例が示すのも、動画単体ではなく「体制全体の設計変更」が離職率を動かした点です。
3ヶ月続けるために必要なコンテンツ量の試算
Phase 0〜4 を実装するには最低でも以下の本数が必要です。
- Phase 0: 3本(ウェルカム・初日案内・MVV紹介)
- Phase 1: 4本(チーム紹介・オフィス/ツール・先輩インタビュー・コンプライアンス)
- Phase 2: 4本(部門別ミッション・業務フロー・評価基準・ロールモデル)
- Phase 3: 3本(コアワークフロー・製品知識マイクロラーニング・失敗事例)
- Phase 4: 3本(組織横断・評価軸・フィードバック)
合計17本前後が設計の基準です。ゼロから外注制作すると1本あたり5〜30万円、計85〜510万円規模になります。これを AIアバター動画ツールで内製化した場合のコスト比較は、別の記事「研修動画のAIアバター内製化」で詳しく扱っています。
明日から始める3ステップ
オンボーディング動画の設計は、全17本を一気に揃える必要はありません。最初の90日で一番リスクが高い「最初の3日間」に集中するところから始めれば、コスト・工数ともに現実的な範囲で着手できます。
ステップ1: 現状の棚卸し(所要時間: 2時間)
FOCA 5分類(ウェルカム・文化浸透・キャリア設計・ロール特化・コンプライアンス)のうち、現在動画として存在しているものを確認します。「ない」の数がそのまま設計の優先順位リストになります。
ステップ2: Phase 0〜1の3本制作から着手(所要時間: 1〜2週間)
最初に作るべきは次の3本です。
- CEOウェルカムメッセージ動画(2〜3分)
- 入社初日の流れ案内動画(3〜5分)
- 先輩社員インタビュー動画(3〜5分、既存社員へのインタビュー録画で可)
この3本が揃うだけで、Day1の新入社員が受け取る安心感は大きく変わります。Antisel が NPS 100 を達成した施策の中核も、MVV紹介と初週ガイドシリーズの整備でした。
ステップ3: 1ヶ月後の定量確認(指標設定)
Phase 1〜2 の動画視聴完了率・1on1でのフィードバック・入社1ヶ月サーベイのスコアを確認します。Synthesia / Panopto を使用している場合は、動画の視聴完了率・視聴時間帯・再視聴率がダッシュボードで確認できます。
数値で確認できるということは、改善できるということです。「なんとなく離職率が高い」という状態から、「どのフェーズで何が足りないか」に課題を落とし込める設計になります。
本音を言えば、VideoNextを立ち上げた背景にはこの問題意識が最初からありました。
BtoB企業が「人を採る → 辞める → また採る」というサイクルを繰り返している構造的原因の一つが、オンボーディング設計の欠如です。採用コストに投資する企業は多くても、入社後の「最初の90日」の設計に投資している企業はまだ少ない。
VideoNextでは、新入社員向けのオンボーディング動画から営業・マニュアル・ウェビナーまで、BtoB企業の動画活用全般を支援しています。「まず何から作ればいいか」というご相談から受け付けています。