デジタルヒューマンという言葉を耳にする機会が、ここ2年で急増しました。AIアバター・バーチャルヒューマンとの違いが曖昧なまま使われているケースが多く、「結局何が違うのか」「自社ではどう使えるのか」という問いが宙に浮いています。本記事では、定義の整理から BtoB 4用途別の導入事例、SaaS型と3DCG型の作り方2ルートまでを一本で整理します。

ネクプロが企業のAIアバター動画支援を続ける中で、「デジタルヒューマン」という言葉への反応が変わってきていると感じます。2023年頃は「メタバースの話?」という受け止め方が大半でした。それが2025年に入ると「うちの受付や研修に使えないか」という具体的な問いになってきています。

実用化の確信を得たのは、ITRが2025年9月に発表した国内市場のデータを見たときです。2024年度の国内デジタルヒューマン市場は12億9,000万円、前年比46.9%増。2029年度には55億円、CAGR 33.6%という軌跡が描かれていました(出典: ITR プレスリリース 2025年9月)。この伸び率は、導入検討が観念から実務に移っていることを示していると思います。

デジタルヒューマンとは

AIアバター・バーチャルヒューマンとの違い

「デジタルヒューマン」「バーチャルヒューマン」「AIアバター」の三つは、日常会話ではほぼ同義で使われています。ただし、厳密には指している範囲が異なります。

3 TERMS HIERARCHY 3つの用語の包含関係 AIアバター(最も広い概念) AIを搭載した仮想キャラクター・代理人の全般 のうち、外見リアル+双方向対話を持つもの デジタルヒューマン ≒ バーチャルヒューマン 外見リアリティが高く、双方向で対話できる存在 デジタルヒューマンを成り立たせる3技術(協議会定義) センシング 状況・質問を理解 AI応答生成 文脈を踏まえ返答 音声合成・描画 人間らしく表現
FIG.1デジタルヒューマン・バーチャルヒューマン・AIアバター——三つの用語の包含関係と主な特徴

最も広い概念がAIアバターです。「AIを搭載した仮想キャラクター・代理人」全般を指し、外見のリアリティよりも「話す・案内する」機能が主眼です。HeyGenやSynthesiaのような生成AI SaaSで作られる2D映像のキャラクターも、ここに含まれます。

その中でも「外見のリアリティが高い(3Dモデルまたは高解像度映像)+双方向対話機能を持つ」ものを、特にデジタルヒューマンまたはバーチャルヒューマンと呼びます。この二つはほぼ同義で、メタバース文脈では「バーチャルヒューマン」が好まれる傾向があります。

本記事では「デジタルヒューマン」を広義の上位概念(AIアバターを含む)として使います。具体的な製品・事例を紹介する際は、各社の呼称に合わせます。

デジタルヒューマン協議会の3技術定義

定義を語る上で参照すべき組織があります。2023年4月、NECが発起人となって設立したデジタルヒューマン協議会です(出典: NEC プレスリリース 2023年4月25日)。

協議会は、デジタルヒューマンを成り立たせる技術を次の3要素に分解しています。

  • センシング: 相手の状況・質問を理解する(音声認識・自然言語処理)
  • AI応答生成: 文脈を踏まえた返答を生成する(LLM等)
  • 音声合成・グラフィックス: 応答を人間らしい外見・声で表現する

この3要素がそろって初めて「対話できるデジタルヒューマン」が成立します。動画としてのAIアバター(一方通行の情報伝達)と、双方向で話せるデジタルヒューマン(受付・窓口対応)の違いも、この3要素の有無で整理できます。

なぜ今 BtoB で注目されるのか

背景として、労働力不足という構造的な問題があります。パーソル総合研究所と中央大学の共同研究(2018年)によれば、2030年に644万人の労働力不足が生じると推計されています(出典: パーソル総合研究所 労働市場の未来推計)。受付・問い合わせ対応・研修講師・窓口相談といった「対面コミュニケーションを要する業務」が、最も人手不足の影響を受けやすい領域です。

この文脈でデジタルヒューマンが注目される理由は、24時間稼働・多言語対応・スケーラビリティの三拍子にあります。一人のデジタルヒューマンが同時に1,000人の問い合わせに対応でき、更新はスクリプト修正だけで済む。人材採用・育成コストとの比較で、導入優先度が実務上昇してきています。

国内市場は既にその動きを数字で示しています。前述の ITR データ(2024年度 12.9億円、CAGR 33.6%で2029年度に55億円)は、概念先行だった2022年頃と比べて、実装フェーズへの移行を示す指標と見ることができます(出典: ITR プレスリリース 2025年9月)。

BtoB 4用途別の活用事例

受付から研修、IRまで、デジタルヒューマンの導入が進んでいる4領域をそれぞれ見ていきます。

BtoB 4 USE CASES BtoB 4用途別の活用と効果 受付・研修・IR金融・カスタマーサービスで進む導入の代表事例 受付・案内 東急コミュニティー 800 件/月を対応 家賃・申込手続き の一次案内をAI化 人は複雑な相談に 集中できる 研修・育成 DuPont × Synthesia 80% 制作を高速化 1本あたり1万ドル 以上のコスト削減 120言語の研修を 内製で更新可能に IR・金融窓口 NEC × アイシン Saya が窓口対応 住宅ローンの条件 ヒアリングと試算 繰り返す説明を 標準化・自動化 CS対応 Klarna 230 万件を処理 CS対話の約2/3 700名分相当を代替 解決11分→2分へ (82%短縮)
FIG.2BtoB 4用途別のデジタルヒューマン活用——代表事例と主な効果数字の比較

受付・問い合わせ対応

不動産管理会社の東急コミュニティーは、2025年3月から堺市営住宅管理センターの窓口にAIアバター「AIさくらさん」を導入しました(出典: 東急コミュニティー プレスリリース 2025年4月15日)。家賃支払い方法・入居申込み手続きの一次案内をAIが担い、月間約800件の問い合わせに対応しています。

この事例で注目するのは、対話の質より「一次対応の網羅性」です。窓口に来る人の多くは「料金の確認」「手続きの流れ」を知りたいだけで、担当者の判断を必要としない。その層をAIが引き受けることで、人間のスタッフは複雑な相談に集中できます。

少し個人的な話を挟むと、受付業務を自動化するという判断に、単純な「コスト削減」以上の意味を感じます。人がやっていた仕事をAIに移すことへの違和感は理解できます。ただ実際には、そのスタッフが本来力を発揮すべき業務(難しい相談対応やクレーム解決)に時間を割けるようになる、という再配置の話でもあります。コストより先に「その人に何をしてもらいたいか」を考えると、優先順位の見え方が変わります。

研修・人材育成

グローバル製造業のDuPontは、SynthesiaのAIアバター動画ツールを研修に導入しました。その結果、動画制作速度が80%高速化し、1本あたり1万ドル以上のコスト削減(外部制作会社との比較)を実現しています(出典: Synthesia DuPont 事例)。従業員23,000人以上を対象とした120言語の研修動画群が、内製で更新可能になりました。

グローバルCX企業のTeleperformanceも同ツールを採用し、1本あたり5,000ドルのコスト削減と5日間の制作時間短縮、40言語への同時展開を実現しています(出典: Synthesia Teleperformance 事例)。

スクリプトを修正するだけで動画が更新できるという感覚は、実際に使ってみるまで実感しにくいです。従来の研修動画制作は「撮影→編集→確認→再撮影」の繰り返しで、1本のリテイクに数日かかることも珍しくありませんでした。それが、テキストを直すだけで済む。制作コストより「再撮影の心理的ハードル」が消えたことが、継続的な動画更新を現実にする鍵だと感じます。

研修AIアバターの活用について、より詳しく見たい方はこちらもご覧ください。

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IR・金融窓口

NECとアイシンは2024年10月、生成AI(LLM)とデジタルヒューマン「Saya」を組み合わせた金融機関向け相談対応システム「NEC Personal Consultant」を発表しました(提供開始: 2024年12月)(出典: NEC プレスリリース 2024年10月15日)。

住宅ローン相談において、デジタルヒューマンが借入条件のヒアリングから月々返済額のシミュレーションまでを担います。金融機関の窓口業務では「同じ内容の説明を何度も行う」コストが大きく、標準化と自動化の余地が大きい領域です。

IR・株主総会でのAIアバター活用については、こちらの記事で詳しく解説しています。

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決算説明会でのAIアバター活用も合わせてご参照ください。

出典 · SOURCE
note.com

カスタマーサービス

スウェーデンの決済フィンテック企業Klarnaは、2024年2月にAIアシスタントの成果を公表しました(出典: Klarna 公式プレスリリース 2024年2月)。

初月で230万件の顧客対話を処理し、CS対話全体の2/3を担当。従来700名分のフルタイム相当業務を代替し、問い合わせ解決時間を11分から2分(82%短縮)に短縮しました。問い合わせ再発率は25%減、顧客満足度は人間担当者と同水準という結果です。2024年通期で4,000万米ドルの利益改善効果が報告されています。

一点補足が必要です。Klarnaは2025年5月、「コスト効率重視の自動化は品質低下を招く」として、人間担当者を再登用する方針転換を発表しています。この事例は「AIで全置換すれば解決」という単純な話ではなく、「どの業務をAIに任せ、どこに人を残すか」の設計が問われることを示しています。

デジタルヒューマンの作り方——2ルートの選び方

導入方法は大きく2つのルートに分かれます。目的・予算・品質要件によって、どちらを選ぶかが変わります。

2 ROUTES TO BUILD 作り方は2ルートで選ぶ 目的・予算・品質要件で分岐 どちらのルートから始めるか タイプA:生成AI SaaS型 BtoB導入の主流 向き:研修・製品説明・問い合わせ動画 予算:月額5〜29ドル〜の低コスト 制作:スクリプト入力で数分 特徴:多言語をワンクリック展開 代表:HeyGen / Synthesia / D-ID タイプB:3DCG型 高品質・カスタム・高コスト 向き:双方向対話の接客・窓口設置 予算:SaaS型の数十倍規模 制作:専門のSIが必要 特徴:高いリアリティと対話性 代表:MetaHuman / NVIDIA Omniverse まずBtoBで始めるなら、SaaS型から検討するのが現実的
FIG.3生成AI SaaS型 vs 3DCG型——予算・目的・制作期間から選ぶ2ルートの判断フロー

タイプA: 生成AI SaaS型(BtoB導入の主流)

テキストを入力すると、AIアバターが話す動画を自動生成するツールです。代表的なものに HeyGen(月額29ドル〜、175言語対応)、Synthesia(月額18ドル〜、140言語対応)、D-ID(月額5.9ドル〜)があります(HeyGen料金: 出典 HeyGen pricing)。

BtoBで最も多く選ばれているのがこのルートです。理由は明快で、専門的な撮影設備や3Dモデリングの知識が不要で、スクリプトを書けば数分で動画が完成します。多言語展開もワンクリックで可能で、研修動画・製品説明・問い合わせ対応動画の制作に適しています。

SaaS型の実際の導入フローは次の5ステップです。

1. 目的・シナリオ設計: 何の業務(受付/研修/IR)に何を話させるか定義する

2. アバター選定 or 作成: 既成アバターから選ぶか、自社人物の映像からカスタムアバターを生成する

3. スクリプト入力: テキストを入力し、音声・トーン・言語を設定する

4. 動画生成・確認: プレビュー確認後に生成。多言語版は一括生成できる

5. 配信・更新: Webサイト / LMS / 展示端末等に埋め込む。更新はスクリプト修正のみ

タイプB: 3DCG型(高品質・カスタム・高コスト)

より高い外見リアリティや、リアルタイムで双方向対話できる「インタラクティブ接客型」には、3DCGベースのアプローチが選ばれます。

Epic GamesのMetaHuman CreatorはUnreal Engineと連携し、高品質な3Dヒューマンを無料で作成できます(出典: Unreal Engine Digital Humans)。NVIDIA OmniverseはリアルタイムAI対話機能を持つデジタルヒューマンの構築に使われています。

東急コミュニティーやNECのSayaのような「展示/窓口に設置して双方向対話」を実現したい場合は、このルートが候補になります。ただし、制作・カスタマイズには専門のシステムインテグレーションが必要で、コストも SaaS 型の数十倍規模になるケースが一般的です。

まずBtoBで始める場合は、SaaS型から検討するのが現実的です。研修動画・製品説明・問い合わせ対応動画を低コストで内製化し、効果を確認してから、双方向対話が必要な用途への拡張を検討するという順序が手応えを掴みやすいです。

メリットと現実的なデメリット

デジタルヒューマンの導入を検討する際、メリットとデメリットを均等に把握しておくことが重要です。

主なメリットは3点です。

  • 24時間稼働・スケーラビリティ: 休憩・残業・時差なし。同時に何人もの問い合わせに対応できる
  • 多言語対応: SaaS型なら100言語以上に一括展開。グローバル研修のコストを大幅に下げられる
  • 更新コストの低さ: スクリプトを修正するだけで動画が更新される。法令改正や製品変更への即時対応が可能

現実的なデメリットも3点あります。

  • 不気味の谷: 外見がリアルすぎると、わずかな違和感が強い拒否反応を生むことがある。用途によっては、完全なリアリティより「明らかにAI」の方が受け入れられやすい
  • 初期設計コスト: シナリオ設計・スクリプト品質が仕上がりを左右する。スクリプトが薄いと、どんなに外見がリアルでも信頼を損なう動画になる
  • ハルシネーションリスク: 双方向対話型の場合、AIが事実と異なる回答を生成する可能性がある。金融・医療・法律など正確性が求められる領域では、応答範囲の設計と監視が必須

Klarnaの事例が示したように、「AIに任せる業務の設計」が品質を決定します。導入して終わりではなく、定期的な応答品質の確認と更新が継続コストとして発生することを見込んでおく必要があります。

導入時によくある3つの問いへの答え

BtoB導入の相談で繰り返し出てくる問いをまとめます。

Q1: 外見は日本人にできるか?

SaaS型(HeyGen/Synthesia等)では、既成の日本人系アバターが用意されており、日本語への対応も標準的に可能です。さらに、自社の社員を撮影してカスタムアバターを作成できるオプションもあります。3DCG型では、MetaHumanで日本人の顔立ちをゼロから設計できます。

Q2: 導入後の更新は誰がやるのか?

SaaS型はスクリプトの編集だけで動画を更新できるため、動画編集の専門知識は不要です。研修・マーケティング担当者が自分でスクリプトを書き、更新できる体制が現実的です。社内担当者が継続的にメンテできる仕組みを最初から設計することが、長期活用の鍵です。

Q3: 最初に何用途から始めるべきか?

受付・問い合わせ対応の FAQ 動画から始めるケースが多く、効果が見えやすいです。研修動画の内製化も、既存の外注コストとの比較で ROI が計算しやすく、稟議が通りやすいテーマです。どちらの場合も、最初は「繰り返し使う情報を動画化する」という限定的な用途から始め、品質に手応えを得てから範囲を広げる順序が安全です。

研修動画の内製化については、こちらの記事で実践フローを詳しく解説しています。

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まとめ——VideoNext からの問いかけ

デジタルヒューマンは「未来の技術」から「今期の選択肢」に変わっています。国内市場の46.9%増(出典: ITR 2025年9月)という成長は、一部の先進企業だけでなく、BtoB 企業全般が実装に動き出していることを示しています。

整理すると、デジタルヒューマンの導入で最初に問うべきは「どれほどリアルに見えるか」ではありません。「どの業務で、何を自動化し、人間は何に集中するか」という設計です。受付 FAQ、研修動画、IR説明。どれも、スクリプトを用意すれば今日から始められる用途です。

AIアバターをBtoBで活用する全体像は、こちらのガイドにまとめています。

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出典 · SOURCE
video-next.com